【イベントレポート】2013年、”ビジネスとしてのメディア”方程式をどう解くか?

2013年02月04日
メディアプローブは、角川アスキー総合研究所 主席研究員 遠藤 諭氏、BusinessMedia 誠 編集長 吉岡綾乃氏の2名を招いたセミナー「2013年、ビジネスとしてのメディア方程式をどう解くか?」を1月24日に開催しました。編集者を経てメディア企業経営に携わってきたメディアプローブ藤村厚夫も加わり、3人による2013年のメディア業界の動きを展望するというセミナーは、募集開始から短期間で満席。さらに当日は参加率が9割と熱気あるものとなりました。

メディア消費の大きな変化から2013年を捉まえる

遠藤氏セッション風景
セミナーは、まず、3人のスピーカーがそれぞれ、2013年のセミナーに向けた展望を述べるセッションから始まりました。
遠藤氏は、角川アスキー総研の調査データを中心に、消費者のメディアの接触時間やコンテンツ購入、コンテンツ消費スタイルなどの現状について資料を用いて解説。

メディアとの接触時間については、特にテレビでは年齢が高くなるほど長くなる一方、本離れが言われている20代は、実は雑誌コンテンツ消費が旺盛である現状を指摘しました。
そして、日本人のテレビの視聴時間やPC利用時間、ゲーム機を使う時間が減っている一方、スマートフォンが1年で4.9%から13.1%と急増し、またタブレットもまだ数は少ないとはいえ110%増加しているとしました。(2010年末と2011年末の比較)1、2年以内に買いたいモバイルデバイスでも、iPhoneおよびAndroidが突出して高いこととも併せて、今後数年間はスマートフォンを軸にしたスマートデバイスがコンテンツ消費動向と強く結びつくことを示しました。
メディア利用図

ネットの記事はなぜ無料で読めるのか

吉岡氏セッション風景
吉岡氏はIT系のWebメディアをめぐる課題を赤裸々に共有しました。IT系Webメディアは収益の大半を広告に依存するという点で、民放テレビに近いと解説。「情報は無料」が当たり前のメディアにおいて、実体験に基づいた課金ビジネスの難しさについて触れました。

また最近の傾向として、1)SNS経由の記事への直接ランディング、2)まとめサイトの急成長の2点をあげます。ユーザはまとめサイトで満足し、元記事にアクセスせず、さらにまとめサイトのほうがページビューが高くなることもあるといいます。これらの変化に柔軟に対応していくには「人」が鍵と吉岡氏は述べ、ファンを作り、良いコンテンツを作って信頼を築き、メディアを育てていくことが大切だと結びました。

デジタルメディアを洗う新たな3つの波

藤村セッション風景
藤村からは、最近のメディアの例として洗練されたデザインとスマートな広告をとりいれたWebサイト「QUARTZ」を紹介。数多くのバナー広告とナビゲーションが散乱している状況が、ユーザの満足度を下げ続けており、それは危険な段階にあると述べました。また、同サイトではコンテンツの表示を縦にスクロールするタイムライン型を採用し、広告をそのタイムラインにはさみこむなど、FacebookやTwitterなどに慣れたユーザにとっては、違和感なくコンテンツと広告を読み進むデザインを模索しているとしました。

また、マネタイズ(収益源の開発)では、有料課金の可能性が広がっていること、また、タイムライン内に広告を挟み込む方向など、従来のバナー型かリスティング型かという以外の広告の可能性が生まれてきていることを示しました。

最後に藤村は、Web、アプリ、電子書籍など、メディア企業が多種のメディア形式を提供する必要性が出てきており、それらすべてに高い開発力や経験を積みあげることが難しく、適切な外部パートナーとの協業が重要になってくるとしました。

トークセッション

参加者の多くがメディアビジネスで活躍していることもあり、3人のスピーカーだけでなく、会場からも非常に興味深い意見や情報が述べられる場面がいくつもありました。

消費者の動きを見据えた議論の中では、遠藤氏や吉岡氏がフォーマットについて言及。書籍はA4、B5など型にあわせて作ればよかったけれども、デジタルは、PCやスマホ、タブレットなどディスプレイの大きさが異なり、見せ方もユーザの環境にあわせたコンテンツづくりが必要となり、制作が複雑化していくのが大きな課題となっていると吉岡氏。

遠藤氏は、タブレットがいまだブレイクしていない原因として、コンテンツの数の少なさを指摘しました。その一方で、数だけでなくキラーコンテンツの重要性も指摘しました。

ここで、会場から電子書籍ストアを運営されている実務家からの意見がありました。最初50冊からスタートした同ストアでは、サービスがブレイクしたのは1000冊を超えた時で、やはり数は必要だったと振返ります。そして、次のブレイクスルーはキラーコンテンツが売上げを押しあげた時だったといいます。

会場からさらに、著名な老舗出版社のデジタル化に携わるキーパーソンから声が挙がりました。同氏は、かつて「紙」で出せばすべての人に伝わっていたと勘違いしていたと冗談まじりに話します。アプリなど、タッチポイントを変えると、同じコンテンツでもお金を支払ってくれる人は存在すると強調します。それに対し、遠藤氏は「人はタイミングにお金を払う」との意見を述べました。

最後に、吉岡氏は「5年後くらいに起こる大きな変化に備えて、メディアを丁寧に作っていく」と結びました。

最後に

デジタルメディアの実務に携わる方々の“勉強会”型コミュニティの形成を目指してスタートした今回のセミナー。主催者がたじろくほどの参加希望と熱気のある会合になりました。藤村が述べた通り、現在のデジタルメディアはそれぞれ独立したいくつもの柱が形成されてきており、相互に影響を及ぼし合うようになっています。今後も、それぞれの分野での“プロ”同士が情報交換を行っていくことが求められるとの認識を深める機会でもありました。
(報告:メディアプローブ藤村)